y0u2k7a5loveの日記

詩とか小説書きます。

好きということ

好きということ

それはスープをスプーンで掬う。でもそのスプーンがスプーンではなくよく見るとフォークでぜんぜん掬えなくてそのうちにもあつあつのスープはさめていってしまう。

わたしは何回も何回もその見間違いだったんじゃないかと思い掬おうとする。さっきまでスプーンだった、わたしの目はおかしくなってしまったんじゃないかって。不思議なことにそのときの自分はまったくスプーンを疑おうとはしない。

器から熱が感じられなくなった。

そして完全にひえきったスープすらも飲めない。なぜならわたしはわたしには、スプーンを使って飲むことしか知らないからだ。

悲しい気持ちになり、目が涙でいっぱいになった時、あなたが来る。とてもベストなタイミングでわたしの座る椅子に手を掛けて面白そうなものを見るように見下ろしている。なにも話さず、じっと見ている。

それだけでわたしのお腹の底から手の末端まであちこちが太陽を浴びたみたいにゆっくりと暖かくなり、ほっとするのだ。スープなんて飲まなくてもよくなってしまう。

きっとこういうことなんだ、そのときはじめて気づく。

好きということはからだじゅうが暖かくなり、暖かい気持ちになることだろう。

そしてそれはなににも変えられないし、この世で一つだけなんだ。

【詩作】やさしい世界


やさしい音楽と

やさしい小説があって

やさしい動物と

やさしいひとがいて

おたがいのことは

そんなに知らないけど

すぐ打ち解けあって

一緒に料理をしたり

毛糸があればマフラーを

それから空は

ピンク色をしていて

夜になると

鮮やかなミドリになる

ケーキを食べよう

ドーナツにする?

先にコーヒーを淹れなきゃね

コーヒーを淹れるのは

鼠の仕事で

テーブルを拭くのは

虎の仕事

僕はいったいなにをしよう?

仕事がなくて

悲しい気持ちでいたら

大丈夫と女の子が

髪を撫でた

女の子の指はとうめいで

中にきれいな赤い血が

枝分かれしながら流れてる

まるで上空から見た夜の渋谷

のようで

車や道そのものがなかったら

渋谷の光の流れは存在しなくて

血や血が行きつく中心部が

なかったら

この子はいないのだ

僕のこの悲しさは

どこから来ているのだろうか?

みんなそれをもってるの

あなただけじゃない

女の子は言ってくすくす

笑った

とうめいな手を

僕は

ずっと握りしめていたいのに

握っている感覚は

手のひらに

少しも感じられないのでした

近くにいた虎が

今夜はビールでも飲もうか

とおおきな声で言った

俺はな、

星を見ながらビールを

飲むのが好きなんだ、昔から

おまえの星を

見つけてやるから今夜は

黙ってビールを飲もうぜ

【詩作】言葉にならない言葉


彼女は魚の目で

わたしをみた

なにを思ったのかしら

手はつめたくなっていくだけ

嫌なものを含みすぎた

梅雨の歌舞伎町に漂う風は

においというにおいを

肌にしみこませ

わたしはわたしではなくなった

それはそれでよかった

終電を逃すことは

人の弱い部分を強くするの

その手を離さなかった

つめたい手を温めて

血と血を

心と心を

伝え合うこと

汚れているものって

そんなに悪いものなのかしらね

【詩作】素敵なこと


素敵なことそれは

じょじょにきみとあたしのキョリが

近くなっていくこと

彼氏とどう繋ぐのと

きいてきて、

小指だけで繋ぐよと言った

嘘と嘘がからみ合い、

じょじょに伝えあう体温は

あたたかくて

とても素敵なことだった

あたしの真っ赤な顔が

やさしさでできていること

知っている人って

少ないの

もうあの頃に戻れない戻りたい

J-POPの歌詞は言うけどさ

ひとつの森で

幾度もすれ違いながら

過ごしている森のクマみたく

あたしたちも

うまくいかないかなってね

七月の夜は長くてとろけてしまうね

青い樹木のなかにいる

ぬるい風が肌を撫で

虫のこえに耳を澄ます

そこにきみの姿はまだなくて

ただ二頭のクマが

のそのそとやってきて

すれ違いざまにね

あっと思い出したように

おしりを嗅ぎ合うの

それって胸がつまるくらい

素敵なこと




【詩作】それがほんとうなら透明で甘い


好きな気持ちは好きなままで

弱いのなら弱いままで

いいんだよ

だっていつもほんとうは

たったひとつしか

なくて

そのたったひとつを

見捨てたらなにもないんだ

赤い夕焼け

父親のギブソン・ギター

だれかの言葉

ありふれたものって

ありふれてない

おまえのいのちは

草が風に揺れるとき

そのたびに

いくつも生まれている

わたしの言葉は

誰かの胸に届いているか

そんなことは知らない

インド人に恋をした

女の子は

インドへ行ったっきり

わたしは

なにかにすがりつき

冷めきった顔で

花がきれいだなんて

言って

心を

淀んだ緑に塗るのだ

高山に生える植物は

化粧品の成分に

変わり果て

過酷な場所で育ったことは

売り文句に

変わり果て

同じ数だけ持った

人々の情熱は

変わり果て

ちいさな工場の中で

繰り返される

エンジン音を

ただ聴いている

ただ聴いて

つたう涙を舐めている

風の中で揺れるおまえの

いのちを思うとき

涙は透明で甘い



【創作】ある夜の記憶

 死ぬのが怖いなら、死ぬのを受け入れたらいい。

そう教えてくれたのは、タクシーの運転手だった。運転手にしては、また、男にしてはよく話すほうの人だけど、視線は常に窓ガラスの向こう側に集中していた。

「死ぬのが怖いんです。僕は夜ベッドに入ると眠気とともに、恐怖なんです。眠ったら死ぬんじゃないかって。寝ている間に息が止まって死ぬかもって。そのときたしかに息苦しくなります。だから眠りたいのに眠れない。野生のハムスターみたいに、僕の神経はいつもぴんと張っているんです」

「あのね」

運転手は飴を舐めているらしく、口からぴちゃぴちゃとだ液の音がした。

「死にたくないと思うのは、生きている証拠だから、当たり前のことなんだけどもね、そういう気持ちが強くなればなるほど、細胞が騒ぐんだ。おまえさんの細胞は騒いで、止まらなくなっちまってるんだね」

赤信号。

「だからそういうときは、男ならだまって待つしかないんだね。支度が二時間かかるレディのことなら待つだろう?」

滅多に視線を合わせない運転手は、鏡越しから一瞥だけ僕にくれて、おおげさに笑った。僕も少しだけ笑った。

「二時間は正直きついですけど」

「なに言ってるんだよ。ちゃんと寝て、おまえさんいい男になるんだよ。死ぬときゃ死ぬんだからさ、そんなに恐れるなということだね。受け入れてやるんだね、あるいは一緒に生きていくんだ」


「お腹が空いてるだけなんじゃないのか。起きて、なんか冷蔵庫のものを漁ればいい」

そう言ったのは、十つ離れたバイトの先輩だった。

「何を食べたらいい? わからないんだ。教えてくれ。そのとおりにするから」

「例えば豆腐とか」

「豆腐?」

「うん。味のしない豆腐なんか深夜に食ったら味がしなくてびっくりして眠れない恐怖なんて覚ましてくれんじゃないの。わからないけど」

「深夜に豆腐を食べたことがある?」

「ねぇけど、腹が減りすぎて冷たいナゲットなら食ったことある」

先輩は首を人差し指で掻くと、首のみじかく刈り上げられた髪が指の動きに反発し、爽快な音を立てた。それから白い粉が黒いポロシャツの襟にやさしく降りた。

「なにもつけないで食べたの」

「おれな、マスタードの酸っぱさは苦手なんだ。意味がわからない。なんであれはあんなに酸っぱいんだ? 馬鹿、おれはケチャップだよ」

先輩が深夜にケチャップを取り出し冷たいナゲットを食べているところを想像した。

「喉につめたいのが通る感覚が気持ちよかった。あれは初夏の夜だったから、寝苦しいわけでもなかったけど、でもその感覚は今でも忘れられないんだ。深夜に喉を通り過ぎてくナゲットのことが」

「それで落ち着いたんだ」

「もしかして、女のこと考えてるから寝れねぇんじゃないの? ほら、おまえたしか、今二十歳だろ。恋の一つや二つするんだろ」

先輩はため息をついた。

「ひとつわからないですね僕には」

「人を好きになることがわからないんです」

「はぁ。おまえもういいよ」

「すみません」

僕は先輩に少し期待してみた。この人になら話しても大丈夫かもしれないと思った。

「おれはもう諦めてるからおまえに言ってるの、わかるか」

先輩は実際にはいたいけなところがあった。

僕はそこに魅力を感じた。

「兄貴は結婚して家出てったから、おふくろはおれが監視しとくしかないんだよ。じゃないとまた近所のばばあに勝手に被害妄想して、庭の雑草刈りとってポストに入れちゃうからね。だからおれはこうやって会社も辞めてバイト掛け持ちして、ゴミ屋敷に帰るだけなんだよ」

「先輩も出ていけばいいじゃない」

「まぁそうだけどね。そんな簡単じゃないのよ」

先輩の顔にだんだんと影が落ちる。

「おれんち、ちょっとおかしくてさ。鍵で家入れないの。親がおれの鍵持ってるから、入るときは庭から入って、窓を叩くとおふくろが出てくる」

おふくろという言葉には、人によって響きかたが違う。おふくろという言葉にはきっとなにか、特別な力が存在するのだろう。先輩の口から出るおふくろは人をあったかい気持ちにさせた。

「ねぇおふくろの反対語はなんだと思う?」

「はぁ。ちんこ」

「なるほど。即答でしたね、えっお父さんのことそう呼ぶの?」

「そんなこと聞くな馬鹿」

先輩は自分の言ったことに対し、後からツボに入ったようだった。僕は笑ってる先輩を見ながら、まだこの人は笑えるんだ、と思うと少しほっとした。

「そんで、玄関の扉も握るところが白い包帯みたいなもので硬くぐるぐる巻にされてるから、おれは窓以外に出入りができないんだよ」

「近くの人に相談しました? それは立派に先輩の自由やら生きることやら恋愛やらを奪ってるよ。先輩の脳みそはいま、壊死状態になってる。やばいって。早く、はやく」

「市のやつらはぜんぜんだめ。言っても行動に起こさないんだ。家にも来ない。これだから殺人事件は減らないんだ。このままだとおれは自殺か殺人をすると思うよ」

先輩は決まって最後にこれを言った。僕はそれを聞くたびに胸が傷んだ。あと何回これを聞くのだろう、僕は何回でも訊くだろう、そのたびに先輩は僕の胸を傷めつけるだろう。それか僕が知っている先輩はまだほんのちょっとで、僕の知らない先輩がもうすでに新しい扉を開こうとしているかもしれない。

そして僕は、市のやつらとほとんど変わらないのかもしれない。

なぜか、この人を放っておくことができなかった。しかしどうしてあげたらいいか具体的にはわからない。この人を救ったら、それは自分自身をも救える気がした。先輩を見ていると胸が苦しくなるのは、先輩は僕の鏡だからだ。

僕は以前、先輩の代わりに先輩の家からいちばん近い市が運営している保健センターに電話をかけた。それが先輩と市のファーストコンタクトに繋がった。

「個人が特定できないとお話が成立しないので、あなたさまの友達を思う熱いお気持ちはたいへん理解できますが、ご本人様からお話は伺いますので、一度、ご連絡か、直接こちらに足をお運びいただくようお伝え願いできますか? それからでないとお話が進められないんです、申し訳ございませんが、あなたさまとお話しすることはできないんです。」


誰かを本気で救うことは、僕にはできない。僕は明日死ぬかもしれないから。明日こそ、眠りについたら息が止まりそのまま永遠に目を覚まさないかもしれない。


僕はその日の夜も眠れなかった。誰もいないキッチンの冷蔵庫を空けると豆腐一丁を取り出した。

流しの前で透明のフィルムを剥がすと、汁が出てきて僕はこぼさないように角に唇をそっとつけて、吸った。なんの味もせず、安らぎも刺激も、孤独もなかった曇天みたいに。

飲み込むと後からかすかに苦味だけが残った。

スプーンで豆腐の表面をくり抜き、その窪みをぽん酢をたらして埋めた。くり抜いた豆腐を上からかぶせると、少しずつ茶色い液が滲み出ていき、豆腐は汚れていった。今度は力強く、スプーンの腹を使って豆腐を奥に沈め、それからかき混ぜた。

どのくらいそうしていたのか、形の崩れた豆腐はそれが豆腐なのかもうわからなくなってしまっていた。夏に食べるシェイクそのものだった。変わり果てた豆腐に、僕は思わず笑った。

飲み物に近い物体をどう食べたらいいか考えているうちに、さっきから心を締め付けていたものがほどかれていく気がした。

あるいは、一緒に生きていくんだ。

【詩作】ソウルメイト


まっすぐのまっすぐの道を

歩いてたいよ

あなたとわたし

なにも話さなくていい

たまに見つめあって

そらして

また見つめあって

なにか伝え合う

まっすぐな道を歩きながら

おしゃべりな心たちよ

恋をしたのよ

この道をずっと歩いてたいな

ソウルメイトだよ

そう言って

わたしはすこしだけ

すこしだけ

遅くしたの

この道をまっすぐ歩きたいんだ